読みさしの本があと二、三ページで終わることを思いながら家を出た。電車に乗って本を開くと、残ページは思いのほかあった。手に持っている感覚で、あとは解説だと思い込んでいたらしい。読み終えるまで四駅くらいかかった。解説を読んで、冒頭に戻り、それからぱらぱらとページを繰ると、数々のシーンが走馬灯のように駆け抜けていった。本をしまったあと、何をするでもなかった。ただぼうっと考えていた。火星と、核と、50年代と、そういう不安を考えていた。
ボンドエア、シャーロックが乗るはずだった飛行機、墜落を待つユーラスの孤独な旅。SHERLOCKにおいて飛行機は最初からずっと死出の旅であった。スティーブン・モファット、あるいは「彼ら」が飛行機という小道具に惹かれるのはなぜなのだろう。実際的な別れはこの小道具によっては生じないけれども、潜在的な、観念的な意味での旅立ちは常にここにある。ホームズはかつて19世紀で滝壺に落ちたように、21世紀ではビルから落ちた。落ちて死ぬのは肉体だけではない。飛んでいるものはいずれ落ちる。ジム・モリアーティが望んだように。幾度となく折り込まれるのはそうした摂理への冷めた目線であり、そうはなりませんように、という祈りにも見える。